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Bloodiest / Bloodiest (2016)

USはイリノイ州シカゴのポスト/スラッジメタルバンドによる2ndフルレングスアルバム。
Relapse Recordsからリリースされた。

今作からベースがex-Russian CirclesのColin DeKuiper氏に変わっており、
Facebookの基本データにあるバンドメンバーの項を見る限り、現状としては以下の編成になっている。

Bruce Lamont - Vocals
Cayce Key - Drums
Tony Lazzara - Guitar
Eric Chaleff - Guitar
Colin Dekuiper - Bass
Nandini Khaund - Piano/Synth

なお、ボーカルのBruce Lamont氏については、
Corrections HouseやUSポスト/エクスペリメンタルメタルバンドのYakuzaにも参加している。

取り分けて芸術的な方々なのだが、ただ投げっぱなしの歪ではなく、聴かせる能力にも長けている。
あなたは、意図せずともNeurosisやMinsk、Toolの系譜、深淵なる自己内在的オデッセイの波の跡を追いかけるように、
先鋭的なBloodiestの音に触れていくことになるのだが、それは先ずダークな世界観である。

時にNeurosisといった一つのポストメタルのオリジンはご存知だろうか。いや、ご存知だろう。

1990年代には、グランジやデザートロックやドローン、スラッジ・デス・フューネラル/ドゥーム等の、スロー/ダウナーな歪が多く創出されたが、同時にポストメタルも創出された。
その最重要ファクターが、Swansから影響を受けたTool、ポストロックと共振したボストンハードコアのIsis、そしてMelvinsから影響を受けたNeurosis。
Toolの成功は余りにもワールドワイド過ぎるため、ジャンルの型枠には嵌められないことが多い。
他にもJesuやNadjaやPelican等が革新的な音像を提示した、その高い芸術性は、アヴァンギャルド的ですらあったのだが、
図らずとも音の行き場を探し求める時代の衆達へ、インストゥルメンタルの持つ際限無き表現力や、ノイズの可能性を活かす精神性が伝承されていったようだ。

Neurosisを含め、その全てはメタルの音の様式美からは遠くもあったのだが、その聞き手は今まで聞いてきたメタル乃至その他の音楽と同様の扱いを施すもので、
現在のこのジャンルは少し孤立してしまっているところがある。

しかし誤解を恐れずに言えば、このポスト○○なるものは、レアケースであり、そして、革新的なものでなければならない訳でもあり、それは、ある種正当な評価とも言える。
様式的にグレードアップされていき、一時的に廃れることで、また再評価されるといった、一連のサイクル(環流)が行われるのが近代音楽の常なものであるが、
このポスト界隈に限って言えば、逐次新しい音が出現してくるものの、やはりその余りにも深い思想が、本質的に他との共振を阻めて、過去の音自体への様式には連ならないと言える所為だろう。
ただ、これらの音は、それ自体が決して排他的であったり閉ざされたものではなく、誰もがこころの奥底に秘めている広大で深遠なる世界に光を当てたものだということは強調したい。

基本的には、もはや形骸化として、ダウナー/ダークでインスト重視のメタル作品には大抵Neurosis系といったお冠が被せられてしまいがちで、
このBloodiestに関しても、それに類する音と言えるのだが、彼らに限っては、Neurosisをも凌駕し得る高いクオリティを見せつけている。

その内実は、Toolや13年のRussian Circles等の影響を感じさせるドープなリフレインを主軸に展開される。
それは決してお安いバンドが軽く手を出して演出できるレベルを通り越しており、およそ全編に渡って同ベクトルの思考の結果によるパラレルを紡ぎ出しているかの如き、染まりように驚嘆する。
じりじりと人間の焦慮を炙っていくかのごとく、ダウナーな刻みを漂わせ続け、稀にエクスペリメンタルブラック色の強いトレモロリフの閃光が眼裏を染め上げ、
ダークアンビエンスな実験性を漂わせつつ、時折、叫喚が畏怖の念を際立たせたりもする。
荒涼とした心象、その自己内在的アトモスフィアによる歪んだリフレインが、タメを効かせたドラミング、朴訥とした歌唱と共に起伏を立たせ、民族的なグルーヴを誘起させる。

所感では、平坦な刻みが、鍵盤の旋律と幽玄な声音と合わさり、徐々に一つのノイズに侵食されていく#5をイントロダクションに繋げられる#6がハイライトで、
鍵盤の音色が、重く歪んだスラッジメタルのリフレイン、慟哭する歌唱と共鳴して、崩壊のようなヴァイオレンスを描きながら亜激情的な世界観を構築したのち、深く深く全身の筋繊維が硬直するかの如きリチュアルなサウンドスケープを展開して行く。

結果、やはり本作は、Neurosis、Tool、Minsk等に比肩する高い芸術性を感じさせるような作品に仕上がっていて、この強大すぎる力の前にただ立ち尽くすのみであり、
完全に均しい偶像は、もはや実像を獲得しており、それに対するいかなる懐疑を溶かしていくものなのである。
Bloodiestの阿片に侵された私に、本作の分析解説などは到底及びもつかぬことなのであった。

曲目は、

1. Mesmerize 05:17  
2. The Widow  07:53 
3. Condition  02:55 
4. Broken Teeth  07:32 
5. Mind Overlaps  03:23  
6. He Is Disease  06:36 
7. Separation  07:58 
8. Suffer  02:04   

Total  43:38

#1はyoutubeにリンクしてあります。

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