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Agoraphobic Nosebleed / Arc (2016)

US産グラインドコアバンドの、全4部を予定する中での1stEP。
Relapse Recordsからリリースされた。

偉大なるAxCxやPig Destroyerのギタリスト、Scott Hull氏がドラムマシーンと付き合い、
主体となり活動するバンドで、バンドの活動歴には普通にグラインドコア/ノイズの作品が多いが、
本作では意外にも、ドゥームメタルを鳴らしている。
無論同氏の音楽遍歴にもそういった要素のある作品はいくつかあるが、今回は少し毛色が違う。

Scott Hull氏の歴史上に於いてのドゥームメタルというのは、
閉塞感や気鬱な情感で充足されたインモラルな精神性に沿った音像であるかと思うし、結論として本作もそうであるのだが、
初聴時の印象としてあったのは、ListenableやSouthern Lordのバンドに特質を見いだせるような、悠然としてダイナミックなもの。
それは、wino氏らが築き上げてきたドゥームメタルの様式美線上にあるものといっても差し支えないが、
音を前にしてヴァイオレンスや、牙を剥かれたような感覚に陥るのは、やはりAgoraphobic Nosebleedの存在感が他とは違った、広義的な解釈としてのハードコアなものであるからのように思える。

して音としては、そのドゥームメタルを主軸に展開される、
と思っていたのだが、
ただその内容を深く知ろうとして、その詩的世界に触れたとき、本作の印象が一転する。

本作の世界観には、一種の精神疾患がまとわりついている。
ひとりの娘を持つ母親の譫妄状態的序章となる#1から、
その死体を目の当たりにした娘の蠕動が伝わる#2、
何か狂ったようなものとしか思えないが、恐らくは死にゆく母親の情念が映し出された#3.

そしてそれ等が、Katherine Katz女史の苛烈な歌唱により、狂乱にも近いモノローグ的世界観が映し出されることによって、
惨憺たる情景と恐怖が浮き彫りになってくるのだ。
ノイズが途切れるようにして終わる作風は、
その瞬間にただノイズが途切れているだけではなく、ひとりの女性が死んでいるのである。

結論としては、Pig Destroyer/Mass & Volumeに近しい作風を、
USドゥーム/スラッジメタルバンドSalomeのボーカルだったKatherine Katz女史の歌唱により、幾分かアップデートしたと言える素晴らしい内容なものの、
本質的にScott Hull氏ではなく、そのKatherine Katz女史に焦点の当たる作品に仕上がっているため、ドゥームメタルなため、肩透かしを喰らう方も多いだろうなと思う。
また音楽は、音像、歌詞、ビジュアルが伴ってこその総合芸術だという方と、そうじゃない方によって評価は分かれるだろうとも思う。兎に角そういう作品なのだ。

ただもう一度言うが、音を前にヴァイオレンスや牙を剥かれたような感覚に陥るのは、
やはりUSグラインド/ノイズシーンの鬼才率いるAgoraphobic Nosebleedの面目躍如であるし、
件の彼女の存在がなければ、このような生々しく悍ましい作品は産まれてこなかっただろうとも思う。

曲目は、
1. Not A Daughter 7:00
2. Deathbed 8:44
3. Gnaw 11:32

Total 27:16

bandbamp
Arc
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