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Ehnahre / Douve (2016)

USボストンのエクスペリメンタル/アヴァンギャルド/ブラック/デス/ドゥームメタルバンドの4thフルアルバム。
Kathexisという前衛アーティストの作品を5タイトルほどリリースしていると言うだけ、
ほぼ謎に包まれたレーベルからリリースされた。

前衛的も前衛的である。過去作の前衛的姿勢としては、13年のIhsahn等も彷彿とさせる酷く抽象的かつ異能的で悩ましげなものであったが、
この前衛的姿勢は、Sunn O)))の内実を瞥見させる、より幅広い世界でのアンダーグラウンドとも共振しているようだ。

本DouveでのEhnahreのやり方は、ブラックメタル、ジャズ、アヴァンギャルド、ノイズ、ドローン、即興音楽、それらの要素を過去から取得している。
その一つ一つを形骸化させずに、原初的な意味を持たせられ創出された、遍く音楽への否定性の中で共鳴し合った概観は、やはり空間を昏く彩るよう、排他的で退廃的な情調を漂わせている。
ご閲覧の皆さまへ優しい表現を用いれば、部屋の雰囲気が変わる性質の芸術と言えようが、音楽的現代思想のダークサイドに類するのは言うまでもない。

だがアルバム自体は、聴手に対して配慮のある構成となっている。一曲一曲が独立した趣のある不穏な怪音楽の作品集とも言える作りだ。
取りつかれた様な独唱によって構築され、産み落とされた異常な空間の中で、鍵盤の旋律がジャズの素養を醸し出し、陰性で能動的なアコースティックギターの音色がコンテンポラリーアートの趣を漂わせ、ベース並びにダブルベースの音色や排他的なディストーションがその混沌を補助する。
その要素による幾つもの展開が十八つに分けられている。

全てが空気的に図られており、虚無へ捧げられるようシニカルに演じられて行く。
主題であると思しき自己内在的な世界の崩壊は、そこだけ純然たる先鋭的なデスメタルの素養によって行われ、空間の概念を鈍くしている。
体感として我々が歪の中に存在できる時間は思ったよりも少ないだろうが、そのだけ対立項のバランスが狂わされていれば、観念の根底までの深い衝撃が伝わるものだろう。
そしてアルバムは虚ろげなアコースティックギター、欝屈とした鍵盤の音色によって沈み込み、何か生命の糸の切れるような単音で締められる。

端的に言えば、存在する虚無感に、CoyoteぐらいのころのKayo Dotの危うい雰囲気を掛け合わしたものと、
Portal或いはFlourishing等で聴ける先鋭的で模糊としたデスメタルの要素の対立が、ひとつの作品に落とし込まれており、
その数ある楽曲中での精神疾患のメタファーと排他のヴァラエティに富んだ数々の手法が、沈鬱で内省的な蔵物を、より一層のこと特異なものにしている。

従って本作は、聞き難いものをエクスペリメンタルとして蹉跌を踏んだものではなく、
前述の通り純粋に前衛芸術を演出する良質な代物ものであり、虚無の気配に魅了される欝作品なのだ。

曲目は、

1. I Saw You  04:47 
2. Rather the Ivy  02:37
3. At Last Absent from My Head  05:41 
4. Great Dogs of Leafage Tremble  02:28 
5. Black Gestures  04:43
6. Trees of Another Shore  01:49 
7. Wounded One Blurred Among the Leaves  02:29  
8. Tearing Out of the Sight  03:42   
9. Ceiling of Insects  05:58 
10. Black Princes / Fountain of My Death  05:28
11. The Black Tread of the Earth  04:17
12. The Interior Sea  04:26
13. The Door Opens  05:25
14. I See You Disappearing  04:25
15. The March of Suns  05:38
16. The Throat Paints Itself  05:54
17. The Mute Limits  07:00 
18. Attempted Rift in the Thickness of the World  05:06   

Total  01:21:53 


Ehnahre - Douve [Trailer]

bandcamp
Douve

※デジパック盤は時間の都合により#11が削除され#15が半分の尺に切り取られています。