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Aluk Todolo / Voix (2016)

フランス産ブラックメタル/クラウトロックバンドの5thフルアルバム。
Deathspell OmegaやTeitanbloodの在籍するフランスのNorma Evangelium Diaboliからリリースされた。

荒涼感を主とした漠たるブラックメタルにクラウトロックの実験性を織り交ぜた音楽性で、好事家筋から親しまれるバンドである。
前作には、比較的その極寒の地のいと侘しき土着性的空気感の効いたブラックメタルの素養が在ったように思うのだが、
今作に関して言えば、音像に於けるブラックメタルの比重が軽くなっており、よりクラウトロックの実験性を主軸に据えて構築される、フリージャズやプログレ乃至はエクスペリメンタル濃度の濃厚なアヴァンギャルドブラックメタル作品と成っている。

このダークな世界観と共鳴するはやはりKing CrimsonのRedに代表されるような、星一つない敬虔な闇の広がる世界であり、
其処からのプラトン哲学的見地から見た、ポストエクスペリメンタルブラック面へ続いていく類型解釈としては、
USエクスペリメンタルブラックのMurmurや、フィンランドのブラッケンドクラウトロックことOranssi Pazuzu等が彷彿とされるものだが、
過去から積み重ねてきたバンドのアイデンティティとも言うべき、クラウトロックの素養を自虐的に転換させる高い実験性には、同郷のChaos Echœsにも近しい、さも物陰が闇の淵に繋がっているかの如き、陰性の際限なく広がり行く深遠的で不可思議な精神を強く感じることが出来る。

アルバムは展開一つとっても、素早く手数の多いドラムと低くうねるベースが構築する、排他的な鬱屈の世界の中で、出口を求め狂おしく鳴り響くエクスペリメンタルなギターと言った、刺激的なインストゥルメンタルの連続で構成されており、作中で遭遇する体験の連続は、聴く者を、一つのリフを妄信的に繰り返しトランス感覚を誘発させる手法、細やかなリズムチェンジ、沈鬱に垂れこめる意識的な間からなる、静動の対比や緩急起伏の豊かさといった、総ての聴かせ所に於いて統率の執れた体験的で立体的な世界へ誘ってくれる。

ただインストゥルメンタルの感じ方、受け取り方というのは人それぞれであり、それは本Voixに関して言えば、
エクスペリメンタルのエクスペリメンタル足らしめる諸要素が幾何学的に際限なく広がり行き、深遠的で不可思議な心地に落ち着く方がいれば、延々同じような展開が続いている様に聴こえる方もいれば、そんな体験露知らず途中で寝てしまっている方もいるだろうと思う。
そして其れこそが、クラウトロックの特性を先進的なブラックメタルに同居させたバンドの面目躍如として一つ起源してくる、必然的なことで在るのではないだろうか。
クラウトロックの種類では、Neu!の名作と同様のミニマムと原初的な空間音楽への反応としてである。

そんなブラックメタルの間口の中で、その様式から外れた音像の飛び道具だけで戦っているような本作だが、
Deathspell Omegaとは別の手法を以ってして、同バンドに代表されるジャズ/即興音楽/ノイズの影響下にある尖鋭的なブラックメタルのプロットそのものを立体的に再構築すると言う点では、
ブラックメタルの歴史上の新たな転換期を物語る音を秘めた作品の一つといっても過言ではない新しい価値観を視ることが出来る。
大きな展開の中では、じわじわと音そのものの倍音が変化されていっていたり、音量自体も変化していっていたり、歪んでいっていたりとしており
音密度のふり幅が大きいだけ、中々濃厚なムードが楽しめる作品と仕上がっているので、何も難しいことに囚われることなく、この仄暗く排他的にして深遠的な情調にトリップしてみてはいかがだろうか。

曲目は、

1. I  8:18 
2. II  7:54 
3. III  5:01 
4. IV  7:02 
5.

V  5:34 
6. VI  9:29 

Total 43:18

♯5はyoutubeにリンクしてあります。

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