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The Body / No One Deserves Happiness (2016)

USオレゴン州ポートランドのエクスペリメンタル/スラッジメタルユニットの5thフルアルバム。
Thrill Jockey Recordsからリリースされた。

近年Full of HellやKriegやVampilliaやThouやSandworm等とのコラボレーションや多数のライブ出演等、精力的に活動を行い、異様な存在感を高めているThe Body。
その16年最新作となる本作品は、毎作作風の違うながら厭世感と排他性の高い表現力から、常にこの激重界隈へ新たな提案を行ってきた彼らの本質を保ちつつも、
音像に過去数十年分のポップスの要素を際立せており、その進歩の向かう先に表現されているようである。
そしてその脱構築の妙が、現代的音楽思想の憂愁に薄命な様子で垂れこめている。

なお、本作には以下複数のゲストミュージシャンが参加しており、混沌として重厚な作品に花を添えている。
Alex Barton  Guitar 
Maralie Armstrong  Vocals 
Ben Eberle  Voice 
Chrissy Wolpert  Voice 
Reba Mitchell  Voice 
Laura Cetilia  Cello 
Kerstin Hern  Voice 
Dan Blacksberg  Trombone 
Dylan Walker  Voice 
Keith Souza  Drums, Keyboard 
Seth Manchester  Drums, Programming 

♯1は神聖な女性コーラスを靡かせながら幕を開ける序章的部分を司る一曲。
コーラスの途中から陰性のファンファーレと、body特有のヘビィなバッキングがなだれ込み、
苦難飢餓困憊憎悪の終着点にあるような思念の深いスクリームが闇を充足させ混沌として行き、思いの外すぐ終わる。
どことなく2ndの♯1とも近しい展開で魅せてくる。露醜的で端的な構築力だ。

♯2は、タムがポップスやキャバレーミュージックの様なノリの良いグルーヴを起こし展開し始める曲。
其処に、安定した人間放棄スクリームと、ドローンドゥーム系のどす黒いリフがズブズブと這い出してきて、堕ちるところまで墜ちた所に、
女性ボーカルによる雄弁な歌唱が挿入され、暗黒のアンサンブルを統率し始める。
また、元々ドローン界隈の出自でもある為、電子系のアプローチには明るいbodyだが、
この曲から昔の電子音楽/ポストパンク界隈に多く用いられてきたTR808なる伝統的なドラムマシンの効果が垣間見えてくる。
最先端の機材ではないからこそ、聴き手の電子音楽への既存の認識に在る郷愁とリンクして、音像にリアリスティックな陰影を落とし込むのだ。

♯3は、♯2でのノイズの蠕動するラストから繋げられるハーシュノイズ曲。
「For You」と言うタイトルが呪詛的に感ぜられる程のノイズと発狂だが、ドラミングとのグルーヴが崩壊していないのが優しい作りだし尺も2分34秒であるため丁度良い。
♯4は終末的なアトモスフィアの漂う一曲で、重厚なシンセとドラムマシン、そして発狂とドローンリフによる崩壊を、再び女性ボーカルワークにより煌々と終末に導いていく。彼ららしい厭世観の際立つ曲だ。

♯5は、15年のKriegとのスプリット作でも用いていたようなドラムマシン独特のアタック音と黒くノイジーなリフが印象的な曲。
此処でも登場する女性コーラスとブラックメタルサイドのボーカルワークの対比や、低音域での暗澹たる音色と高音域での神聖な音色の対比が、
白と黒、光と闇のキャッチーな構築美を生み出しており、本作の「最も粗悪なポップアルバム」というコンセプトが徐々に高次元的な形を以って結実し始める。

♯6は、音の割れたポストダブステップみたいなビート感の裡で、情感的な力強い女性の歌唱と、
ネオフォーク/エクスペリメンタル由来の揺蕩うバッキングが反響し合い浮遊感を醸し出す幽玄な曲だ。

♯7は♯1♯4と共振した概観を呈する、ダークなエクスペリメンタルスラッジ曲。
本作は、一曲一曲の尺が比較的短いため、本曲もマンネリズムでなく起伏の一つとして、必然的な存在感を発露している。
また、この曲のアルバム全体に於ける意識的な配置により、これを以ってアルバム全体が後半に差し掛かることを顕示している。
その終盤から繋げられた♯8は、ドローンリフの上で気鬱な女性とコーラスによるボーカルワークが印象的なエクスペリメンタルドゥーミーな曲で、
Chelsea Wolfe等を彷彿とさせる都会的で不健全な危うさを感じさせる歌唱と重みだ。
これまで本作での女性ボーカルの在り方は、ホーリーサイドの象徴として起源していた所が在るのだが、
それは此処に来て堕天し、展開は闇の濃度を増して行く。

同じ情調のまま繋げられる♯9は、
アルト音域での女性コーラスと、タメの効かせたドラミングと、ドローンドゥームリフにより展開される気鬱な曲、
それに寄り添うべくして介入してくる破滅的な叫び声により、作品を終焉へ導いて行く。

最終曲となる♯10は、荒廃のメタファーから成る打ち込みと、
冥界からの呼び声にも似たスクリームによるドローン空間の上で、
女性によるエピローグ然とした語りが乗せられる、荒涼として侘しく陰鬱な曲。
これを以って本作の幕閉じとなる。

私的に本作に似た作風と思しき、複数の女性による讃美歌風のコーラスに異常な重みがぶち込まれることにより、
どことなく背徳的で淫蕩な雰囲気をたたえていた「A Body」他、過去のEP等からバラエティ豊かな楽曲の収められていた、
名作と誉高い10年2nd/All the Waters of the Earth Turn to Bloodと比べれば、
「最も粗悪なポップアルバム」がコンセプトの本作は、同じように女性ヴォーカルの表現の妙や、ヴァラエティ豊かな楽曲の一つ一つの主張による、ユニークかつ猥雑な概観を作品の印象に落とし込みながらも、
ストーリーとして、陰性の一貫した情調を保った、完成度や芸術性の高い代物に仕上げてきており、
それは、激烈に歪んだ本ユニットによるこれまで培ってきた排他的な精神性により行われる、孤高の実験の向かう先に現れたと言える。
積み重ねてきた陰性の世界での親和的活動や、一貫した厭世の賜物であるだけ、無論とんでもない作品に仕上がっているのだ。すごいぞ。

曲目は、

1. Wanderings  03:58 
2. Shelter Is Illusory  04:27
3. For You  02:34 
4. Hallow / Hollow  06:04 
5. Two Snakes  04:08  
6. Adamah  03:59 
7. Starving Deserter  06:00
8. The Fall and the Guilt  04:32
9. Prescience  07:23
10. The Myth Arc  04:42

Total  47:47 

♯2はyoutubeにリンクしてあります。


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