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ルーマニアエクストリーム情勢を知る


Rotheads / Unfazed By Death

この音楽はデス/ブラックに加えダウナーなハードコアからゴシック/ドゥームといった陰性を感じさせる。
この音を鳴らすバンドはルーマニアの首都ブカレストに拠点を置き活動する、ドゥームデスメタルバンドRotheads。
バンドのギタリストであるデスメタルマニアのJay van Void氏がfacebook上での繋がりの中で、親切にルーマニアは首都ブカレストとティミショアラでの地下ハードコアシーンについて、
いろいろと教えて下さったので、今回はそういった趣旨の記事になる。

彼は他にもVOID FORGER というA389が嗜好していそうな、クラスト/ブラック/ドゥームメタルのバンドをやっており、
そのバンドの音源はこちらだ。

ティミショアラのブラッケンドクラスト/スラッジメタルバンドvvvlvとのスプリットもあるとのことだ。

ルーマニアの首都ブカレストでは、近年ハードコア/メタル音楽の若いシンジケートから繰り出された試行錯誤の結果がネット上に多く挙げられている。
またそのどれもが友好的な関係を持ち、全てはハードコアな音楽により繋がっている。
バンドの一部は、ルーマニア西部のトランシルヴァニア地方にある都市ティミショアラのバンドとも繋がりを持っているようだ。

ギタリストが言うにはバンド活動そのものがポリティクスであり、体に染みついた反骨精神の集合的無意識が今のシーンを形成し全てを突き動かすものだと言う。
私の地元北海道旭川市にもTG Atlasを筆頭にした先進的なハードコアの興隆はあったが、少なくとも内輪での嗜み乃至は多くとも国内規模での活動に主眼が置かれていたように思えるが、
その中でこのハードコアシーンは、DIY精神をもってして、幾つかの音源を世界へ向けて散布している。

DIY精神をもって世界に向けてと言うのも、ルーマニアにも国内一有名なブラックメタルバンドNegura Bungetが初期に所属していたBestial Recordsや、首都ブカレストにあるMetalfan Records Division等の幾つかの小さなレーベルが在り、
00年代後半からは、Arcana NoctisやBanatian DarknessやLoud Rage Music等のブラックメタル専門の音源を取り扱うレーベルもあるものの、
現状での流通は乏しく、また大多数がカセットでのリリースや、デジタルでの配信に留まっているという事実があり、この程度の次元の活動であればバンド単位で容易に行うことのできる為、必然的にそうなってしまうところが在る。

0331recordsという14年に設立されたハードコアレーベルのfacebookを見ても15年の4月にレコードの写真を挙げられているが需要が無かったのかそれ以降にそういった生産性は見られなく、
もっとオーヴァーグラウンドな所でも、大衆性と豊かな音楽性を兼ね備えたアカデミックな‍と言う意味でFlorence + The Machineみたいな音楽性が引き合いに出されそうな知性の充実を感じさせるAlexandrinaというfacebookでのフォロワー数71,530人の女性アーティストでさえも、レーベル契約にはサインしていないのが現状だ。

ただブカレストにはあのUniversal Music Group傘下のUniversal Music Romaniaという世界をまたにかける大きなレーベルが在るのだが、
これは諸外国の大衆音楽をルーマニアに落とし込むための機能と、自国でも表立って興隆しているEDMのためにあるようなレーベルであるようだ。

DTMが世界的市民権を得て誰もが気軽に音楽を作れるようになった情勢が近年の経済的発展とEDMムーブメントの流行に伴う国民の音楽への関心の高まりの中に潤沢な機器と共に輸入され、自国にアーティストやバンドが多く出現している中で、
こういった現状は多くのバンドの発展の妨げになり、バンドのギタリストも、そのことを憂えている。
カセットテープを90年代終盤のお国の経済不況下の中で、今は亡きUSアンダーグラウンドレーベルBreath of Night Recordsまで届けることが叶い広い世界へのリリースにこぎつけたNegura Bungetの好例には、中々なるものでないとのことだ。

それは首都であるブカレストにおいても御多分に洩れずで、近年の唯一の成功例と言えるワールドワイドに活動を行うBloodwayを除いては、現状必然的にDIYで自らの音を発信しているバンドが大多数と言える。
イタリアのI, Voidhanger Recordsとの契約を結んだBloodwayを除けば、全て地下ハードコアシーンに蠢いている現状をして、
またDordeduhやSunset in the 12th House等の例を鑑みる限りでも、今なおルーマニアのエクストリーム音楽界ではNegura Bungetのいる都市ティミショアラが代表的だ。
ティミショアラは、ブラックメタルのレーベルが多くあるドイツとの流通が盛んな開港都市と言うのも大きな要因になるだろう。
メタルラムに掲載される中で現存するバンド数の多い地方上位3つを挙げればブカレストが1番上に来るが、世界へ向けフィジカルな音楽をやる上で有利なロケーションになっているとのことである。
ブカレスト59
ティミショアラ27
文化都市のクルジュ=ナポカ18

ただブカレストには単純に人口/バンド数が多い。とりわけてどれもがDIY精神を強いられる現状の中で、様々な試行錯誤も見られる。
中でもRotheadsのギタリストJay van Void氏が幾つか教えてくれたので紹介したい。その後ルーマニアを調べるにあたって私が補完した内容も含められているが、
パブリブから発刊されている超面白い書籍デスメタルアフリカ/デスメタルインドネシアの贋作を公開すると言う非難轟轟の所業は少なからず影響を受けているが直接的には避けたい為簡略して紹介したい。
前述したレーベル難に加えて、遠くへはユーロ圏を跨ぐ懸念の多い流通と、レイなる独自通貨の煩わしさの中で、CDの売れない現状を見る近年のムーブメントに於けるデジタルの必然性から、
これらのバンドの音源はyoutubeやbandcamp等を筆頭にしたネット上に多く挙げられている。
試しにbandcampを覗いてみよう。

~ブカレスト編~
◇近年の中で一番有名なバンドは絵で道を切り開いた絵で道を切り開いたCostin Chioreanu氏率いるBloodwayだろう。いつかのレビューでも触れたがやはり独創性を感じさせる。

◇costinchioreanu氏はソロでも活動を行っている。自身はこれをアヴァンギャルド・ダーク・アンビエントと称している。自主リリースで在る為€1 EUR で提供されている。

◇Bloodwayも、ギタリストのcostinchioreanu氏は元々はブカレストの地下でMediocracyと言うクラスト/ブラックメタルバンドをやっていた。

◇また、10年から13年まで活動したMediocracyのメンバーが最近絡んでいるバンドがこちらだ。

◇RopeburnというRotheadsの友達のブラック/ハードコアバンド。両者ともhellhammarからの影響を受けている。

◇Take No Moreと言う獰猛なメタリックハードコアバンド。

◇12年から活動を行いクロスオーヴァースラッシュメタラーCrossbone。クロスオーヴァー版Xentrixみたいな良さが在る。

◇13年から活動を行うイーヴルなスラッシュメタラーBerserkersもいる。このアルバムはミキシングの質が曲ごとに違い製作期間内でのメンバーの移り変わりも多かったよう。凄い手作り感が色々な表情を見せ味わい深い。ジャケはcostinchioreanu氏が手掛けている。

◇Concurrency in Knowledge という謎のメロデスバンド。

◇Concurrency in Knowledge という謎のメロデスバンドに在籍するドラマーがやっているDark Fusionなる初期ラムシュタイン要素のあるインダストリアル・メロディック・デス・メタル・バンド。

◇最近世界的に出てきているEDM要素のあるデスコアバンドの中に含まれるであろうEpileptic Outbreak。

◇Djent影響下的デスコアバンドNegative CORE Project。

◇Bastosと言うポストパンク/マスコア。思わず聴き入ってしまう。

◇Anal Holokaustと言う南米のバンドにも引きをとらないべスチャルなブラックメタルプロジェクトもいるが、彼は14年から動向が窺えない。

◇昨15年に結成されたドゥームメタルバンドCardinal。 Rotheadsがやけに推してくれた。

◇次にDIYレーベルRed Cavity Recordsを運営するDan Serbanescuなる人物によるドローンプロジェクトALONE IN THE HOLLOW GARDEN

◇デジタル専門に運営されるKontinuum Productions所属のkraftwerk影響下のクラウトロックプロジェクトAlba Ecstasyも興味深い。この地のEDMブームの中に産み落とされた異端児は多い。

◇Stefan Panea氏なる人物によるDIY前衛アンビエントドローンプロジェクト。

近年EDM(エレクトリック・ダンス・ミュージック)が物凄く流行していたルーマニアにはそれに呼応する機材の輸入も多かったようで、これ等のプロジェクトと音楽性はその副産要素も孕んでいる。
国民の所得は低いものの、物価も安い為、機材も不自由なく手に入れることが出来るようだ。近年は経済情勢も好調なのも好を奏している。

~ティミショアラ編~
ブカレストは前述の音源をお聞きいただければお察しいただけるように、
急速に発展を見せているムーブメントとして成り立っているところがあり、勢いありきなものが多いが、
ティミショアラに関してはルーマニアの神秘性/土着性の効いた音像に、確りとした聴き応えを感じることが出来る。
元々ルーマニアで親しまれていた音楽はジプシーミュージックであることからも、その神秘性を窺うことが出来るだろう。
またやはり、同市の先駆者Negura Bungetの存在も大きく、ここの様式美を感じさせる神秘性乃至前衛性を感じさせることも多い。

◇Negura Bungetは90年代終盤に登場しブラックメタルとジプシーミュージックの土着性溢れる共感を提示した、お国を代表するべき先駆者だ。

◇Negura Bungetの元メンバーとDordeduhのメンバーが絡むポストブラックメタルバンドSunset in the 12th HouseはドイツのProphecy Productionsに在籍し11年から活動する新鋭バンドだ。このバンドでもジプシー的な趣は強い。

◇Prophecy Productionsの子会社Lupus Loungeに所属するNegura Bungetの元メンバー等によるブラックメタルバンドDordeduh。12年1st。ジャーマンブラックの多様的な層にも引きを取らないルーマニアンブラックの隠れ名作だ。

◇Ordinul Negru はLoud Rage Music所属するバンド。04年から精力的に活動し同レーベルからCDもリリースしている。15年最新作がmetal-archives.comでレビューをいただいていることからも知名度が上がってきているようだ。

◇虚無的なブラッケンドクラストLivia Sura。Bloodwayへ影響を与えていると思しいらしい。11年1stEP。

なお、ティミショアラのブラックメタルは、Banatian Darknessから多くの音源をフリーダウンロードすることが出来る。
http://www.banatiandarkness.com/gamma/

また近年のティミショアラにはインテリジェンスを感じさせるドゥームメタル勢も出てきている。この辺りはbandcampでのウケの良さも見受けられる。
◇Nomega

◇The :Egocentrics

◇Methadone Skies

他にも幻想美を感じさせる者たちは多い。
◇近年目覚ましい発展を遂げるクラウトロック影響下のプロジェクトExit Oz 。クラウトロックとジプシーミュージックの融合と言っても過言ではない先鋭的な芸術美に恍惚としてしまうことだろう。

◇近年メタルとの奇妙な親和性を感じさせるトリップホップを鳴らす稀有なプロジェクトArmies。

私が言うのも烏滸がましいがこれ等のバンドはインターネット社会がもたらした音楽のグローバル化により、多くを学んでいる。
多くの音楽は画一的なものになりつつあるが、過去の歴史を昇華すると言う点では、同時に様々な独創性も産まれる可能性を秘めている。
経済的な流れに乗るものは、そこを精査する人間の経験則から自然と形成されたフィルターを通されているから、洗脳のように画一的な世界が繰り広げられるというだけで、
ふるいの上で踊っているものは、非常に多様であり、当然万人には理解できないものも多い。
そのふるいすら、EDMの物差しでしか図られない現状が一部のルーマニアにはある。
その中でこんなにもハードコアなことをやることこそがポリティクスなのだと彼は言う。

と言う訳で今回は、彼の意図を汲んで掲載させていただいた次第。気に入った作品が在ればダウンロードしてみては如何だろうか。何よりも彼らの励みになるだろう。
それではまた。

ご閲覧いただきありがとうございました。


ルーマニアはドラキュラの舞台だそうだ。
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