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Lord Vicar / Waves Of Flesh (2016)

フィンランド産ドゥームメタルバンドの3rdフルアルバム。
ドイツのドゥームメタルレーベルThe Church Within Recordsからリリースされた。
これは14年に亡くなられたUSドゥームレジェンドThe Gates of SlumberのJason McCash氏に捧げられたアルバムになる。

今作は、全1曲約41分。モロにBlack SabbathやSaint Vitusへ傾倒していた前2作から一転して、Reverend Bizarreの大作志向を忽然と引っ張り出してきているが、音はブルージーに引き締まりつつ、時にWitchfinder Generalの歌心を匂わせながら、徐々に伝統的なドゥームメタルの陰に没して行く作風。
全1曲は/で隔たれた副題が7つあり7部構成であることが窺える。再生1回で最後まで聴かせる楽曲の構築力展開力も際立っている。
元々独立した7曲が1枚のディスクに収められていて、その隔たりを取っ払ったような作りでもある。

ボーカルであるChristian Linderson氏の歌唱はここではオジーの物真似/パラフレーズ(リスペクト)を剥ぎ棄てていて生身であり哀愁を感じさせ、ギタリストのPeter Vicar氏による演奏もそれに寄り添いヴィンテージやアコースティックな感覚が強まってはいるものの、やはり全体としてどことなく仄暗い。
随所に憂えるような情感のリフレインを落とし込んでは聴き手を作品の中に引き込んでいく。
じめじめとした物陰から奇矯なアプローチを行うかの如しなReverend Bizarreの面影が投影されている様に感ぜられ僭越ながら心が動く。

レコーディング/ミキシング/マスタリングはReverend Bizarre(07年3rd)からの付き合いでBeheritの近年作等も手掛けているJoona Lukala氏。
ジャケットは、フランスの画家William-Adolphe Bouguereau(ウィリアム・アドルフ・ブグロー)氏による1873年の作品「Nymphs and Satyr」が用いられている。

Jason McCash氏の携わった諸作品を偲びつつ。この伝統的なドゥームの陰性と、此処に来て熟練の様相を感じさせるPeter Vicar氏の多彩な手法に触れることの叶う充実作がここに登場したと言いたい。

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このバンドは07年に解散したフィンランドのドゥームメタルバンドReverend BizarreのGt(Peter Vicar氏)と
スウェーデンのドゥームメタルバンドCount Ravenの初代Voにしてその後Saint Vitusでも歌っていた(Christian Linderson氏)を中心に07年に結成されている。

Count Ravenは80年代終盤から90年代にかけ活動したバンドで、80年代ちっくとも言うべきメタリックなサウンドプロダクションでのダイナミックなドゥームサウンドは、スウェーデンで言えばCandlemassに続き、所謂Black Sabbath/Saint Vitus/Pentagramを黎明とする陰性の遺伝子に新たなダイナミズムを組み込んだバンドだ。
さしずめその初代Voの在籍時はBlack Sabbath直系であるだけに、ドゥームメタルの新概念が次々と構築されて行った80年代後半から90年代序盤にかけて登場し革新を齎したバンド群の陰に隠れてしまっている感は否めない。しかし、その当時少なからずコアな見られ方をしていたドゥームメタルの概観に対し、世界的な時流である激化の流れを汲んでいったドゥームの多義化の名の元で敬虔なるBlack Sabbath愛を世界へ向けかき鳴すエクストリームサウンドは、今となっては独創性として受け入れられている様にも思える。

一方、Reverend Bizarreというのは00年代以降のドゥームメタルへ少なからず風穴を開けた風雲児であると言える。
当時の流れゆく時代の中でBlack SabbathやSaint Vitus直系での陰性のドゥームにおけるエクストリーム化と言う理念に告げられた、デス/フューネラルとの共感すら得る多様性の際立つ1st2ndに加えて、Sleepを凌駕する程の実験性で横溢する3rdといった3枚のフルアルバムはドゥームメタルの歴史において比類ない代物で、それこそ今でも活動を行っていれば、トラディショナルを尊重しつつYOBやUfomammut辺りの現代的バンドにも引きを取らない前衛性を携えたバンドとして各媒体からの脚光を浴びるような景観が目に浮かぶ。

この2つは多かれ少なかれ必ずしも「黒い安息日」からの積み重ねられた歴史の中での評価でありアンダーグラウンドで嗜まれつつもドゥーム界のスターとはならなかったバンド達である。
ひっきょうこのLord Vicarに関しても既にその縁に憂愁の影を落としてはいるのだが、忘れ去られてはならない情念を誘起させるような音を鳴らしているのは確かだ。
時に、USのマーケティング技術と比較する所での北欧ドゥーム自体のB級的位置付けが日本では蔓延っているような昨今だが、それはもう一度考え直してほしいところである。

曲目は、
1.Birth of Wine / The Green Man / A Shadow of Myself / Breaking the Circle / Accidents / A Woman Out of Snow / Leper, Leper 
 
Total 41:21  

試聴
Lord Vicar: 'Birth of Wine'